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■ 第106回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その78~

医師 小澁 陽司
     
 今号からはまた通常のスタイルに戻り、「胸部レントゲン検査」で指摘される
所見の解説を再び始めましょう。

⑭ 肺門腫大(あるいは肺門部腫大):
 胸部レントゲン写真(正面から撮影したもの)をご覧いただくと解るのですが、
空気の通り道である気管は、写真のほぼ真ん中に位置する心臓の影に重なったあ
たりで「人」という字の形に分岐し、左右の気管支となります。そして、気管支
がそれぞれ左右の肺に入って行くところに、ちょうど通用門のような場所があり、
その部位を、読んで字のごとく「肺門」と呼んでいます(肺門の周辺を総称した
呼び方が『肺門部』)。
 肺門はいわば交通の要衝で、気管支のほかにも肺動脈、肺静脈、気管支動脈、
気管支静脈、リンパ管、神経などが通っており、また、肺門部の気管支の周りに
は数多くのリンパ節が存在しています。
 これら肺門周辺にある構造物が何らかの理由で大きくなり、胸部レントゲン写
真などではっきりとわかる状態になることを、「肺門腫大(あるいは肺門部腫大)
」と呼ぶのです。

 それでは次に、肺門腫大を呈する代表的な疾患をいくつか挙げ、それぞれにつ
き簡単な解説をしてまいりましょう。
a) 肺がん:肺がんは、その組織型から大きく4つに分類することができます。
それは扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がん、腺がんの4つですが、これらの
うち、肺門に近い気管支から発生しやすいことで知られているのが、扁平上皮が
んと小細胞がんの2つです。肺門部に発生したがんの腫瘤そのものが大きくなり、
胸部レントゲン上、肺門腫大となって見えることのほかに、肺門部リンパ節にが
んが転移し、そのリンパ節がいくつも腫脹することで肺門腫大を呈する場合があ
ります。
b) 悪性リンパ腫:血液中に存在する白血球は、好中球や好酸球などの総称なの
ですが、その構成要素のひとつにリンパ球があります。本来、体内に侵入してき
たウイルスなどと戦ってくれる、いわば正義の味方であるリンパ球が変異を起こ
し、全身のリンパ節やリンパ系組織でがん化してしまうものを、悪性リンパ腫と
いいます。肺門リンパ節ががん化して腫脹することにより、肺門腫大を呈するこ
とになります。
c) サルコイドーシス:皆様にとって、あまり聞き慣れない病名だとは思います
が、これは全身の様々な臓器に肉芽腫(炎症反応によって作られる腫瘤のこと)
ができてしまう、原因不明の病気です。がんとは違い悪性の疾患ではありません。
肺や眼、皮膚などに好発し、無症状のまま両側肺門リンパ節腫脹が起こるため、
健診の胸部レントゲンで肺門腫大を指摘されて発見されるケースの多い疾患です。
d) 結核:肺結核は、結核菌により起こる感染性の呼吸器疾患ですが、前記のサ
ルコイドーシス同様、肉芽腫を形成することで有名です。肺内への感染だけでは
なく、肺門リンパ節への進展(肺門リンパ節結核)も認められ、その結果、肺門
腫大が顕著となります。

以上の4つが代表的な疾患ですが、そのほか胸部レントゲン写真では、正常な状
態の肺動脈が写っているだけでも肺門腫大と判断されるケースがあり、その病的
な意味は精密検査を実施させていただかないとはっきりいたしません。
健診結果に「肺門腫大:要精密検査」と記載されているときは、必ず胸部CT検査
などをお受けいただきたいと思います。


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