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■ 第101回 健康診断を活かす ■
~知っておきたい「健康診断の基礎知識」その75~

医師 小澁 陽司
     
 さて今回は、胸部レントゲン写真から解る「横隔膜」に関係した所見の解説
を再開したいと思います。
  
⑫肋骨横隔膜角鈍化:なんとなくでも結構ですから、胸部レントゲン写真(正
面から見たところ)を頭の中で思い浮かべてください。もちろん、インターネ
ットの検索サイトで「肺 レントゲン 画像」と検索すれば、より具体的にご
理解いただけるでしょう。
左右に分かれている肺のそれぞれ外側のラインをたどって一番下まで来ると、
肺は下を向いた鳥のくちばしのように鋭く尖って終わっています。

 このシャープな形は、肺の周囲を縦にぐるりと取り囲む肋骨と、肺の底の部
分にあたる横隔膜(そのすぐ下は肝臓)が合わさってレントゲン上に作り出す
所見で、「肋骨横隔膜角」と呼ばれています。
 その角がどんどん丸くなってせり上がり、シャープさが失われて平坦に近い
状態になってしまうことを、我々は「肋骨横隔膜角鈍化(どんか)」と表現し
ます。

 健康診断のような、もともと健康な方が多い場合の胸部レントゲン写真を多
数拝見していますと、鈍化している原因としては以前に罹患された肺の炎症性
疾患(胸膜炎など)が治癒した痕跡であることが多く、現在は何の問題もない
ケースがほとんどです。ただしそれは、その方の過去のレントゲン写真が同一
の健診機関内に残っていて、最新の写真と過去のものとを比較することができ
た上で、全く所見に変化がない場合に初めて明言できることであり、基本的に
は慎重な対応をしなくてはなりません。

 なぜなら、私ども臨床医が外来診療をしている際、息苦しさなどの呼吸器症
状を訴える患者さんの胸部レントゲン写真にこの肋骨横隔膜角鈍化を認めた場
合、それは「胸水の貯留」を疑わなければならないからです。

 実はこの所見、すでに当コラムの第89回(平成24年8月)で詳しく解説
しておりますので、そちらをご参考にしていただきたいと思いますが、要する
に胸水貯留を見つけた時は、肺がんなどの悪性腫瘍、肺炎などの感染症から、
心不全、腎臓疾患といった広範囲にわたる病気の存在を考えて、その鑑別診断
を行う必要が生じてきます。

 ということは、健康診断の胸部レントゲン写真にもそれは同じ理屈が適用さ
れるわけですから、肋骨横隔膜角鈍化が指摘された方のうち、過去の写真との
比較ができない場合は、念のため胸部C  T検査などをお受けいただき、問題点
がないかどうかを確認することが原則になります。

 繰り返すようですが、健康診断ではほとんどが心配ないケースばかりである
とはいえ、上記のように肋骨横隔膜角鈍化から重大な疾患が引き出されること
もありますので、精密検査が必要であるという医師の判断があった場合は、迷
わずに二次検査をお受けください。

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