今回からは、胃バリウム検査の結果用紙に記載される所見名についての
ご説明です。
見慣れた所見名も、全く初めて見る所見名もあると思いますが、各種織
り交ぜてお話してまいりましょう。
①ニッシェ:胃のバリウム画像上、指摘されることが意外と多い所見
ですので、名前はご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。これ
はドイツ語で、「胃の内側の壁に出来た窪みに溜まったバリウム像」を意
味し、主として胃潰瘍が存在する時に認められるものです(十二指腸潰瘍
でもニッシェは認められますが、今回は胃潰瘍についてのみ解説します)。
ニッシェ(英語では『ニッチ』と発音)の元々の意味は、西洋式の建築
物によく見られる、壁をくりぬいて花瓶や彫刻などを置けるようにした半
円のドーム状のスペースのことで、胃潰瘍が大きくなり、胃壁の内側が半
円形や円錐形に削り取られてしまった様子がそのスペースと似ているとこ
ろから名付けられました。
バリウム検査は、胃の内側の形を描き出してレントゲン写真を撮る検査
法ですから、胃の内部をバリウムで充満させた際、胃壁に窪みがあれば、
当然その部分だけ胃は外にちょこっと飛び出して写ることになるわけです。
胃を真正面からレントゲン撮影した場合、前回ご説明した小弯や大弯から
飛び出しているニッシェを「側面ニッシェ」と呼び、胃の撮影中に横から
出てくる円形の機械でお腹を圧迫した時、前壁や後壁に丸くバリウムが溜
まった状態で見えるものを「正面ニッシェ」と呼びますが、一般的にニッ
シェというと側面ニッシェのことを指します。それほど、胃壁から飛び出
して見える側面ニッシェは特徴的なのです。
我々医師はこの所見を見つけた時、まず胃潰瘍(十二指腸なら十二指腸
潰瘍)を疑いますが、残念なことにそれが100%胃潰瘍であるという確
証はなく、稀に胃がんなどの悪性腫瘍がニッシェとして写る場合もありま
す。したがって、ニッシェという所見名が結果用紙に記載されていた時に
は、躊躇せずに胃内視鏡検査をお受けいただきたいと思います。
胃がんに限らず、病気から身を守る要諦は早期発見・早期治療なのです
から、億劫と思わずに是非医療機関をご受診ください。
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